グレゴリオ聖歌の知識
演奏
テクスチュア
聖歌は伝統的には男声に限られ、元来はミサや聖務日課の祈りにおいて、男性聖職者によって歌われていた。しかし、大都市を除いては聖職者の数は限られていたから、次第に世俗男性も合唱に加わるようになった。女子修道院(コンヴェント)では、女性も修業生活の一貫として、ミサ及び聖務日課で歌うことが認められていたが、聖歌隊に加わることは聖職者にのみ許される公的義務とされていたため、世俗女性がスコラ・カントルム (中世)|スコラ・カントルムなどの聖歌隊で歌うことは認められていなかったCarol Neuls-Bates, ''Women in Music'' p. 3.。聖歌は通常、斉唱(ユニゾン)で歌われたが、後には、聖歌に歌詞や音を追加するトロープスや、即興的にオクターブ、5度、4度(後には3度も)の和声を重ねるオルガヌムなどの技法が開発される。しかしトロープスもオルガヌムも、本来の聖歌の曲目に含まれるものではない。これの主要な例外としてはセクエンツィア(続唱)がある。セクエンツィアは、「ユルビス」と呼ばれるアレルヤ唱の引き伸ばされたメリスマ(alleluiaの最後のaを長くのばす)をトロープスにするところから発展したものである。しかし、トロープスもセクエンツィアも、トリエント公会議によってほとんど禁止された。トリエント公会議では、復活祭、ペンテコステ、聖体祝日および死者の日のためのものを残して、セクエンツィアが禁止された。中世にグレゴリオ聖歌の歌唱に、実際にどのような歌唱法が用いられていたのかはほとんどわかっていない。時には聖職者が歌い手に対して、もっと抑制的に、敬虔に歌うように要求していることから、しばしば高度に技巧的な演奏も行われていたことが窺われ、それは「ゆっくりとたゆたう癒しの音楽」という今日のグレゴリオ聖歌のステレオタイプ・イメージとはかなり異なっていたと推測される。音楽性の追求と敬神のあいだのせめぎ合いの歴史は古く、グレゴリオ聖歌に名を冠する教皇グレゴリウス1世 (ローマ教皇)|グレゴリウス1世自身が、説教よりも歌声の魅力に基づいて聖職者が優遇されている現状を批判しているHiley, ''Western Plainchant'' p. 504.。しかし、修道会改革者として知られるクリュニーのオドー(10世紀前半のクリュニー修道院長)は、聖歌の知的、音楽的芸術性を称賛している。ドイツの修道院の一部では、今でも複合唱による本来的な交唱が行われている。しかし、一般的には、現在では交唱も、独唱者と合唱が交互に歌う、応唱の様式で演奏されている。この習慣は、おそらく中世から行われていたようであるApel, ''Gregorian Chant'' p. 197.。中世に開発されたもう一つの技法として、冒頭の句を独唱者が歌い、フレーズの残りを全体合唱で歌う形式がある。この方法により、独唱者によって聖歌のピッチを定め、合唱の入りを合図することが容易になった。
リズム
中世記譜法ではリズムが明確でないため、グレゴリオ聖歌のリズムについては、研究者の間で見解が分かれている。例えばプレッスス(pressus)などのネウマは音の繰り返しを示すが、これは音の延長や反響(リパーカッション)を示すものかもしれない。13世紀には、四角ネウマが普及し、多くの聖歌において、ほぼネウマで割り当てられた音の長さにしたがって各音が歌われていたようだが、13世紀の音楽理論家モラヴィアのヒエロニムスは、例えば最終の音は長く伸ばすなど、特定の音における例外について言及しているHiley, "Chant," ''Performance Practice: Music before 1600'' p. 44.。1614年の ''Editio medicaea'' などの後の改訂版では、メリスマの旋律上のアクセントが、シラブルのアクセントと合致するように書き換えられているApel, ''Gregorian Chant'' p. 289.。この美的意識は、19世紀末に、ワグナーやポティエ、モッケロー等によって聖歌復興運動が起きるまで、強く影響力を保っていた。19世紀末の聖歌復興運動には大きく2つの陣営があった。1つはワグナー(Wagner)、ジャマース(Jammers)、リップハルト(Lipphardt)等の派閥で、聖歌に拍子をあてはめることを主張していたが、ただしどのようにあてはめるかについては意見の一致を見ていなかった。もう一方の派閥は、ポティエ(Pothier)やモッケロー(Mocquereau)が中心となり、各音符の音価は基本的に同じとして自由なリズムで歌い、歌詞または音楽的に強調するべきところでは適宜音を伸ばすことを主張した。ソレーム修道院版のグレゴリオ聖歌現代譜は、この解釈に基づいている。モッケローは、旋律を2音もしくは3音のフレーズに分割し、各フレーズの冒頭に「拍」に似た「イクトゥス」(ictus、強音)をおき、これを小さな垂直線記号で注した。これらの旋律の基本単位は、カイロノミー(手振り)によって表現されるより大きなフレーズへとまとめられるApel, ''Gregorian Chant'' p. 127.。この方法論は20世紀前半には広く流行し、ジャスティン・ワードの幼児音楽教育プログラムによっても普及したが、第2バチカン公会議において聖歌の典礼における役割が弱められ、新しい世代の研究者によってモッケローのリズム理論が根本的に否定されるに至って、次第に使われなくなってきているDyer, Joseph: "Roman Catholic Church Music", Section VI.1, Grove Music Online ed. L. Macy (最終アクセス 28 June 2006), [http://www.grovemusic.com]。現代の一般的なグレゴリオ聖歌の演奏では、主に美的意識の観点から、拍や周期的な拍子は用いない方法が好まれている。William P. Mahrt, "Chant," ''A Performer's Guide to Medieval Music'' p. 18.。強勢はテキストによって、フレージングは旋律の輪郭によって定められる。ソレーム式の音の延長は依然、広く行われているが、絶対的な規範ではなくなっている。
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Mahrt, William P. (2000). Chant. In ''A Performer's Guide to Medieval Music'', Ross Duffin, ed., pp. 1-22. Bloomington, IN: Indiana University Press. ISBN 0-253-33752-6 Wagner, P...
