グレゴリオ聖歌の知識
典礼での使用
グレゴリオ聖歌は聖務日課における定時課および、ミサの典礼で歌われる。司教、司祭、助祭によって「アクセントゥス・エクレジアスティクス」と呼ばれるテキストが詠唱されるが、大部分は単一の朗誦音が用いられ、各文の決まった位置で簡単な旋律の形が用いられる。より複雑な聖歌は、専門訓練を受けた独唱者および聖歌隊によって歌われる。聖歌集としてもっとも網羅的なのは『リベル・ウズアリス』であり、トリエント・ミサで用いられる聖歌と聖務日課でもっとも一般的に用いられる聖歌が収録されている。修道院の外では、よりコンパクトな『グラドゥアーレ・ロマヌム』の使用がより一般的である。
ミサの固有文
入祭唱、昇階唱、アレルヤ唱、詠唱、続唱、奉献唱、聖体拝領唱は、祭日によって異なるテキストを用いることからミサの固有文と呼ばれ、聖歌も祭日ごとに異なるものを用いる。入祭唱(イントロイトゥス)は、祭司の行列の時に用いられる、交唱聖歌である。典型的には、アンティフォナ、詩篇詩句、アンティフォナの繰り返し、頌栄、アンティフォナの繰り返し、という形をとる。朗誦音が旋律構造を支配することが多い。昇階曲|昇階唱(グラドゥアーレ)は、使徒書の朗読に続く日課を詠唱する、応唱聖歌である。昇階唱の多くはセントニゼイションによって作られ、既存のフレーズがパッチワークのように継ぎ合わされて聖歌の旋律が生み出され、音楽的に近親関係にある旋律群が成立している。アレルヤ唱は、alleluia の最後の a を長くのばす、「ユルビス」という明るいメリスマでよく知られる。異なるテキストのアレルヤ唱にも本質的に同じ旋律が使われることがよくあり、このようにして既存の旋律を新しいアレルヤのテキストに用いることを、「アダプテーション」と呼んでいる。アレルヤ唱は、四旬節などの悔い改めの期間には歌われず、代わりに通常は詩篇をテキストとする詠唱(トラクトゥス)が歌われる。トラクトゥスは昇階唱同様、セントニゼイションによるものが多い。セクエンツィア| 続唱(セクエンツィア )は対句形式の詩の詠唱である。セクエンツィアのテキストの多くは典礼文に含まれないため、グレゴリオ聖歌の本来の曲目ではないが、非常によく知られた「ヴィクティマエ・パスカリ・ラウデス」、「ヴェニ・サンクテ・スピリトゥス」などの聖歌が含まれている。9世紀から10世紀初頭に活躍した、初期のセクエンツィア作者であるザンクト・ガレン修道院のノトケル・バルブルスは、セクエンツィアはアレルヤ唱のユルビスに詩句を追加することから発展したと述べているRichard Crocker, ''The Early Medieval Sequence'' pp. 1-2.。奉献唱(オッフェルトリウム )は奉献の間に歌われる。かつては極めて冗長な連構造を持っていたが、12世紀頃には連の使用は廃れた。聖体拝領唱(コンムニオ )は聖餐の聖体拝領の間に歌われる。旋律はしばしば調性的に不安定で、本位ロ音と変ロ音の間を行き来する。こういったコンムニオは明確に1つの旋法に分類することができない。
ミサの通常文
キリエ、グロリア、クレド、サンクトゥス、ベネディクトゥス、およびアニュス・デイはどのミサでも同じテキストを使用するところから、「通常文」と呼ばれる。キリエ(憐れみの賛歌)は「キリエ・エレイソン」(主よ、憐れみたまえ)の三唱、「クリステ・エレイソン」(キリストよ、憐れみたまえ)の三唱、再度「キリエ・エレイソン」の三唱からなる。古い聖歌では、「キリエ・エレイソン・イマス」("Kyrie eleison imas" 主よ、我らを憐れみたまえ)の形も見られる。キリエはラテン語ではなくコイネー|ヘレニズム・ギリシャ語を用いている点が特徴的である。テキストの繰り返しの構造を反映して、音楽的にも繰り返し構造を用いるものが多い。下に掲げるカンブレ写本に収められている Kyrie ad. lib. VI は、 ABA CDC EFE' の構造をもち、セクションごとにテッシトゥーラが移動している。最後の「キリエ・エレイソン」にあたる E' の部分は、それ自体が aa'b の構造を持ち、クライマックスを作り出しているHiley, ''Western Plainchant'' p. 153.。グロリア(栄光の賛歌)は頌栄|大栄頌を唱えるもので、クレド(信条告白)はニカイア信条を唱えるものである。これらの典礼文は長いため、聖歌もしばしばテキストの切れ目に対応した節構造をもっている。また、クレドは後代にミサに追加された典礼文であるために、グレゴリオ聖歌に含まれる曲数が比較的少ない。サンクトゥス(聖なるかな)とアニュス・デイ(神の子羊)は、キリエと同様、典礼文に繰り返しが多く、音楽的にも繰り返し構造をとるものが多い。厳密には、ミサの散会を告げるイテ・ミサ・エスト(行け、解散する)とベネディカムス・ドミノ(神を讃えよう)も通常文に含まれ、それぞれグレゴリオ聖歌もあるが、短く、簡潔なために、後代には作曲の対象となることは稀であり、研究の対象からも除外されることが多い。
聖務日課
修道院では、聖務日課でグレゴリオ聖歌が歌われる。主には詩篇の交唱、朝課での大応唱、他の定時課および終課での小応唱に用いられる。聖務日課での詩篇交唱は短く簡潔なものが多く、一方大応唱は複雑で長い。聖務日課の終わりには、「アルマ・レデンプトリス・マーテル」、「アヴェ・レジーナ・チェロールム」、「レジーナ・チェリ」または「サルヴェ・レジーナ」の4つの「マリア・アンティフォナ」のうちの1つが歌われる。これらはいずれも比較的成立が遅い聖歌で、11世紀に成立し、他の聖務日課用のアンティフォナよりもかなり複雑なものである。音楽学者アーペルはこの4曲を「中世後期のもっとも美しい作品の一つ」と述べている"among the most beautiful creations of the late Middle Ages." Willi Apel, ''Gregorian Chant'' p. 404.。<メニュー>>>
グレゴリオ聖歌 / 歴史 / 音楽的形態 / 演奏 / 典礼での使用 / 影響 / 脚注 / 参考文献 / 外部リンク
Mahrt, William P. (2000). Chant. In ''A Performer's Guide to Medieval Music'', Ross Duffin, ed., pp. 1-22. Bloomington, IN: Indiana University Press. ISBN 0-253-33752-6 Wagner, P...
