ルネサンス音楽の知識
形式と様式
この時期の音楽家は、ほとんどすべて教会か宮廷に雇用されていた。彼らは教会の典礼や宮廷の行事、娯楽のための音楽を作曲し演奏するための人員として雇われていたのであり、古典派音楽|古典期以降の作曲家のように自らの作品それ自体を目的として作曲することはなく、ある特定の目的や依頼に応える形でつくられた曲が多い。
宗教曲(教会音楽)
16世紀の宗教改革にもかかわらず、ローマ・カトリック教会はルネサンス期を通して多くの富と影響力を持っており、この時代の音楽家の多くが教会に雇われていた。そのため、ルネサンス音楽の中心的なレパートリーはカトリック教会の典礼のための音楽である。ミサ曲やモテットがこれにあたり、通常ポリフォニーで書かれ、歌詞はラテン語であった。ギヨーム・デュファイ|デュファイに始まる宗教音楽の系譜ではグレゴリオ聖歌や民衆に広まった世俗曲を定旋律として用いた循環ミサ曲がその模範であり、ジョスカン・デ・プレによる通模倣様式の確立によって完成の域に入った。作曲家たちは、目新しさや意外性を追求し、ポリフォニーをどんどんと複雑化させていった。このことに対し、本来儀式で重要な意味を占める典礼文のラテン語語句を聞き取るのが困難になったと指摘するものがおり、対抗宗教改革の流れの中でトリエント公会議|トレント公会議は「歌詞の聞き取りを困難にするほどの」過剰なポリフォニーを典礼で用いることを禁じた。ジョヴァンニ・ダ・パレストリーナ|パレストリーナやトマス・ルイス・デ・ビクトリア|ビクトリアの作品はこのトレント公会議の方針に沿って書かれたものといえる。
世俗曲
宮廷に雇われた音楽家たちは、宮廷の行事や貴族の娯楽のための音楽を書いた。初期、中期ルネサンスまでは人気のある音楽家のほとんどはフランドル出身であり、世俗曲ではフランス語を歌詞としたシャンソンがその中心であった。宗教音楽を書いた作曲家の多くはシャンソンを書いたが、クレマン・ジャヌカンのように専らシャンソンによって知られる作曲家もいる。いくつかのシャンソンは広く人口に膾炙した。これら有名な旋律は逆に宗教音楽の定旋律として引用されたり、ポリフォニー構造そのものを宗教曲で引用したり(パロディ・ミサ)、また、他の作曲家の世俗曲に引用されたりもした。一方、イタリア半島ではフロットーラという形式の世俗曲があった。シャンソンよりもモノフォニー|モノフォニックで旋律重視の傾向があったとされる。後期ルネサンスにはフロットーラから発展して、マドリガーレやヴィラネッラがつくられるようになる。マドリガーレはペトラルカやボッカチオ、タッソなどの高尚な内容の詩を歌詞を持っており、一方ヴィラネッラはより卑近で時に猥雑な歌詞を持つ。マドリガーレでは高度に詩的に書かれた歌詞の内容を音楽的にいかに表出するかを追求する傾向が生じた(マドリガリズム)。ルネサンス中期までは、声楽曲に対してもどの音符でどの歌詞を歌うかが楽譜で指定されていなかったが、マドリガーレの発展のなかで、音譜に対する歌詞付けを作曲家が細かく指定する習慣が初めて生まれた。器楽
ルネサンス期のレパートリーの中心は上記声楽曲であるとはいえ、さまざまな場面で楽器が用いられていた。宗教音楽の伴奏にはオルガン、また宮廷行事に際しては各種管楽器、弦楽器が用いられていた。しかし、盛期ルネサンスまでは器楽のためだけに作曲された音楽はほとんど見られず、有名な声楽曲の編曲などが主なレパートリーであったと思われる。ルネサンス末期には、典礼音楽のいくつかをオルガンや合奏による器楽に置き換えることがおこなわた。この時期の器楽曲では、使用楽器を明記していないものも多い。鍵盤音楽やリュート音楽ではリチェルカーレ、ティエント、トッカータ、合奏音楽ではカンツォン、ソナタといった形式を生み、バロック音楽における器楽の隆盛のきっかけを作った。
バロック音楽への移行
マドリガーレの発達やトレント公会議のポリフォニーの禁止によって、イタリアを中心として、フランドルスタイルのポリフォニーを捨てて、歌詞や物語を劇的に表出することや、ディミニューションと呼ばれる装飾で音楽を華やかに彩る考え方が発展していった(マニエリズム、クラウディオ・モンテヴェルディ|モンテヴェルディの「第2の作法」)。この動きの中で重要なもう一つの要素がモノディー|モノディー様式の出現である。これは、古代ギリシアの劇音楽の復元を目的として文字通りルネサンス的な活動をしたフィレンツェのカメラータで生じたものであり、テオルボ|キタローネなどの伴奏による独唱あるいは重唱のスタイルを取り、マドリガーレと同様リフレインを持たない形式を持っており、レチタティーボの原型となった。カメラータのヤコポ・ペーリらは1597年に音楽劇「ダフネ」を上演したがこれは、世界で最初のオペラ上演とされる。この、マドリガーレやモノディー形式の探求の中から通奏低音の考え方が発達してバロック音楽へと移行していくこととなる。
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フェンロン 編/今谷和徳 監訳 「花開く宮廷音楽−ルネサンス」 音楽之友社(1997) 皆川達夫著 「洋楽渡来考 キリシタン音楽の栄光と挫折」 日本キリスト教団出版局(2004)関連項目 ルネサンスとは「再生」を意味する言葉で、古代ギリシャ・ローマの復興を目指した14世紀から16世紀頃の(主にイタリアの)文化運動(絵画、彫刻、建築、文学)に適用される概念であ...
