レクイエムの知識
構成と典礼文
常にすべての典礼文に作曲されるわけではない(たとえばモーツァルトのレクイエムは昇階唱がない)。下表は、いわゆる「三大レクイエム」についてどの典礼文に作曲がなされているかをしめしたものである。
| 曲目 | モーツァルト | ヴェルディ | フォーレ | |
|---|---|---|---|---|
| 入祭唱 (Introitus) | ○ | ○ | ○ | |
| キリエ (Kyrie) | ○ | ○ | ○ | |
| 昇階唱 (Graduale) | × | × | × | |
| 続唱 (Sequentia) | 怒りの日 (Dies iræ) | ○ | ○ | × |
| 奇しきラッパの響き (Tuba mirum) | ○ | ○ "Tuba mirum" "Liber scriptus" "Quid sum miser" の3曲に分けて収録 | × | |
| 恐るべき御稜威の王 (Rex tremendæ) | ○ | ○ | × | |
| 思い出したまえ (Recordare) | ○ | ○ "Recordare" "Ingemisco" の2曲に分けて収録 | × | |
| 呪われたもの (Confutatis) | ○ | ○ | × | |
| 涙の日 (Lacrimosa) | ○ | ○ | △ "Pie Jesu"として一部のみ収録 | |
| 奉献唱 (Offertrium) | 主イエス・キリスト (Domine Jesu) | ○ | ○ | △ "Offertorium"として前半部のみ収録 |
| 賛美の生け贄と祈り (Hostias) | ○ | ○ | ○ | |
| サンクトゥス (Sanctus) | 聖なるかな (Sanctus) | ○ | ○ | ○ |
| 祝福されますように (Benedictus) | ○ | ○ | × | |
| 神羊誦 (Agnus Dei) | ○ | ○ | ○ | |
| 聖体拝領唱 (Communio) | ○ | ○ | ○ "Agnus Dei"の一部として収録 | |
| 赦祷文 (Responsory (Libera me)) | × | ○ | ○ | |
| 楽園へ (In Paradisum) | × | × | ○ | |
またカトリック教会における葬儀ミサの式文は第2バチカン公会議以降の典礼の見直しと一連の改革によって内容が大幅に変化した。以下は典礼改革以前のものである。またカトリック教徒ではなくプロテスタントであったヨハネス・ブラームスの「ドイツレクイエム」は、ドイツ語訳の聖書からブラームスが任意に選んだテキストを使用しており、下記に示すラテン語の典礼文とは全く違う内容である。
(なお、原文と訳文で行数をあわせているが、必ずしも左右で対応していない)
入祭唱 (Introitus)
その日のミサの内容を歌うもの。固有文。死者のためのミサでは歌い出しが"Requiem æternam"(永遠の安息を)であるため、ミサ曲全体が「レクイエム」と呼ばれる。
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: 主よ、永遠の安息を彼らに与え、 : 絶えざる光でお照らしください。 : 神よ、シオンではあなたに賛歌が捧げられ、 : エルサレムでは誓いが果たされます。 : 私の祈りをお聞き届けください : すべての肉体はあなたの元に返ることでしょう。(詩編65:2-3) : 主よ、永遠の安息を彼らに与え、 : 絶えざる光でお照らしください。 |
キリエ (Kyrie)
「救憐唱」「憐れみの賛歌」とも。憐れみ深い神への賛歌、あるいは罪人が憐れみを乞う歌。唯一、ギリシア語による。通常文。東方教会で用いる「ヨハネス・クリュソストモスの聖体礼儀」のうち冒頭などで用いられる「大連祷」を簡素化したもの。(キリエ参照。)
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: 主よ、あわれみたまえ。 : キリストよ、あわれみたまえ。 : 主よ、あわれみたまえ。 |
昇階唱 (Graduale)
固有文。著名なものではケルビーニとドヴォルザークに見受けられる。
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: 主よ、永遠の安息を彼らに与え、 : 絶えざる光でお照らしください。 : 正しい人は永遠に記憶され、 : 悪い知らせにも恐れはしないでしょう。(詩編112:6-7) |
続唱 (Sequentia)
固有文。最後の審判を歌ったもの。チェラーノのトマスの作。トリエント公会議で公認された4つの続唱のうちのひとつ。第2バチカン公会議以降の典礼改革で「死後の恐怖を不必要に強調することはキリスト教本来の思想から外れている」という理由でこの続唱は廃止されている。またその歌詞は三行を一単位として脚韻を踏んでおり(aaa, bbb)、典礼文の傑作と言われる。なお「怒りの日」は Dies Iræ ... Amen. まででひとつの典礼文であるが作曲の便宜上以下のように細分されることがある。フォーレのものはこれが省略される。この続唱のテキストには、最終戦争、火による浄化、最終審判など、キリスト教というよりも、むしろゾロアスター教、マヅダ教などイラン起源の二元論宗教の影響が色濃く認められる。
関連リンク:『隠された信条』(PDF)
怒りの日 (Dies iræ)
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: 怒りの日、その日は : ダビデとシビラの預言のとおり : 世界が灰燼に帰す日です。: 審判者があらわれて : すべてが厳しく裁かれるとき : その恐ろしさはどれほどでしょうか。 |
奇しきラッパの響き (Tuba mirum)
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: 奇しきラッパの響きが : 各地の墓から : すべての者を玉座の前に集めるでしょう。: つくられた者が : 裁く者に弁明するためによみがえる時 : 死も自然も驚くでしょう。: 書物がさしだされるでしょう。 : すべてが書きしるされた : この世裁く書物が。: そして審判者がその座に着く時 : 隠されていたことがすべて明らかにされ、 : 罪を逃れるものはありません。: その時哀れな私は何を言えば良いのでしょう? : 誰に弁護を頼めば良いのでしょう? : 正しい人ですら不安に思うその時に。 |
恐るべき御稜威の王 (Rex tremendæ)
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: 救われるべき者を無償で救われる : 恐るべき御稜威の王よ、 : 慈悲の泉よ、私をお救いください。 |
思い出したまえ (Recordare)
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: 思い出してください、慈悲深きイエスよ : あなたの来臨は私たちのためであるということを : その日に私を滅ぼさないでください。: 私を探してあなたは疲れ、腰をおろされた : 十字架を堪え忍び、救いをもたらされた : これほどの苦しみが無駄になりませんように。: 裁きをもたらす正しき審判者よ : 裁きの日の前に : ゆるしの恩寵をお与えください。: 私は罪人のように嘆き : 罪を恥じて顔を赤らめます : 神よ、許しを請う者に慈悲をお与えください。: (マグダラの)マリアを許し : 盗賊の願いをもお聞き入れになった主は(ルカ23:39-43) : 私にも希望を与えられました。: 私の祈りは価値のないものですが、 : 優しく寛大にしてください。 : 私が永遠の炎に焼かれないように。: 私に羊の群れの中に席を与え : 牡山羊から遠ざけ : あなたの右側においてください。(マタイ25:31-34) |
呪われたもの (Confutatis)
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: 呪われた者たちが退けられ、 : 激しい炎に飲みこまれる時、 : 祝福された者たちとともに私をお呼びください。: 私は灰のように砕かれた心で、 : ひざまずき、ひれ伏して懇願します。 : 終末の時をおはからいください。 |
涙の日 (Lacrimosa)
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: 涙の日、その日は : 罪ある者が裁きを受けるために : 灰の中からよみがえる日です。: 神よ、この者をお許しください。 : 慈悲深き主、イエスよ : 彼らに安息をお与えください。アーメン。 |
奉献唱 (Offertrium)
司祭がパンとぶどう酒を捧げる時に歌われる。固有文。
主イエス・キリスト (Domine Jesu)
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: 主イエス・キリストよ、栄光の王よ、 : 全ての死せる信者の魂を : 地獄の罰と深淵からお救いください : 彼らの魂を獅子の口からお救いください : 彼らが冥府に飲み込まれぬように : 彼らが暗黒に落ちぬように。 : 旗手たる聖ミカエルが : 彼らの魂を聖なる光へと導きますように。 : かつてあなたがアブラハムとその子孫に : 約束したように。 |
賛美の生け贄と祈り (Hostias)
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:賛美の生け贄と祈りを : 主よ、あなたに私たちは捧げます。 : 彼らの魂のためにお受け取りください。 : 今日、私たちが追悼するその魂のために。 : 主よ、彼らの魂を死から生へとお移しください。 : かつてあなたがアブラハムとその子孫に : 約束したように。 |
サンクトゥス (Sanctus)
「感謝の賛歌」「三聖唱」とも。神を賛美し感謝する聖歌。通常文。
聖なるかな (Sanctus)
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: 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、 : 万軍の神よ、主よ : 天と地はあなたの栄光に満ちています。(イザヤ6:3) : いと高きところにホザンナ (ホザンナは「救い給え」の意)。 |
祝福されますように (Benedictus)
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: 主の御名において来る者は祝福されますように(詩編118:26) : いと高きところにホザンナ |
神羊誦 (Agnus Dei)
「平和の賛歌」「神羔唱」とも。聖体変化したパンを切り分ける際に歌い、神の小羊であるキリストに世の平安を祈る聖歌。通常文。ただし死者のためのミサでは歌詞の一部が変更される(「我らに平和をお与えください」"dona nobis pacem"→「彼らに永久の安息をお与えください」"dona eis requiem sempiternum")。このため、「平和の賛歌」の意味が薄れる。
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: この世の罪を取り除く神の小羊よ(ヨハネ1:29,36) : 彼らに安息をお与えください : この世の罪を取り除く神の小羊よ : 彼らに安息をお与えください : この世の罪を取り除く神の小羊よ : 彼らに永久の安息をお与えください |
聖体拝領唱 (Communio)
聖体となったパンとぶどう酒を拝領する際に歌われる。死者が永遠の光に照らされることを神に祈る聖歌。固有文。死者ミサの聖体拝領唱は冒頭を取り ''Lux æterna'' とも呼ぶ。
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: 主よ、彼らを永遠の光でお照らしください。 : 聖者たちとともに永遠に : あなたは慈悲深くあられるのですから。: 主よ、永遠の安息を彼らに与え、 : 絶えざる光でお照らしください。: 聖者たちとともに永遠に : あなたは慈悲深くあられるのですから。 |
赦祷文 (Responsory)
ミサの終了後の赦祷式(Absolutio ad Tumbam)で歌われる。ミサには含まれないが、葬儀に関連するため、曲がつけられることがある。通常のミサで使われる嘆願(Libera nos)と区別するため ''Libera me''と呼ぶことが多い。
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: 主よ、永遠の死から私をお救いください : 恐るべきその日に。 : 天と地が揺れ動き、 : 主が炎を持ってこの世を裁く日、 : 来るべき裁きと怒りの時に : 私は恐れおののく。 : 天と地が揺れ動く。 : その日は怒りの日、 : 災いと不幸の日 : 大いなる嘆きの日。: 主よ、永遠の安息を彼らに与え、 : 絶えざる光でお照らしください。 |
楽園へ (In Paradisum)
出棺、埋葬時に歌われる。ミサには含まれないが、葬儀に関連するため、曲がつけられることがある。(この歌での「あなた」は死者を指す)
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: 天使があなたを楽園へと導きますように。 : 楽園についたあなたを、殉教者たちが出迎え、 : 聖なる都エルサレムへと導きますように。 : 天使たちの合唱があなたを出迎え、 : かつては貧しかったラザロとともに、(ルカ16:19-22) : 永遠の安息を得られますように。 |
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「平和の賛歌」「神羔唱」とも。聖体変化したパンを切り分ける際に歌い、神の小羊であるキリストに世の平安を祈る聖歌。通常文。ただし死者のためのミサでは歌詞の一部が変更される(「我らに平和をお与えください」"dona nobis pacem"→「彼らに永久の安息をお与えください」"dona eis requiem sempiternum")。このため、「平和の賛歌...
