歌曲の知識

ドイツ歌曲


一般的に知られるドイツ歌曲は、古典派音楽|古典派時代に先駆的な作品が生まれ、ロマン派時代に発展したものである。オペラから切り出したアリアや演奏会用アリアではなく、独立した詩歌に音楽を付けてひとつの完結した音楽作品としてまとめたものである。この背景には、ロマン派文学の詩人の活躍がある。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ、フリードリヒ・フォン・シラー|シラー、エドゥアルト・メーリケ|メーリケ、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ|アイヒェンドルフらの詩作に霊感を刺激されて多くの作曲家が歌曲に取り組み、様々な表現を発展させた。18世紀末に活躍したヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト|モーツァルトの歌曲は、イタリア・オペラのアリエッタ(小規模なアリア)風の作品から始まり、単純な有節歌曲形式|有節形式の小曲が多いが、ゲーテの詩による『すみれ』、あるいはカンペの詩による『夕べの想い』や、まるでオペラの一場面であるかのような『ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき』などは通作歌曲形式|通作形式で作曲され、内容的にもロマン派の世界を垣間見せるものとなった。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン|ベートーヴェンも『はるかな恋人に』で連作歌曲を導入したが、ドイツ歌曲は大きく発展させたのはフランツ・シューベルト|シューベルトである。彼の600曲以上の歌曲作品は単独の作品のほか、『美しき水車小屋の娘』、『冬の旅』、そして死後出版社がまとめたものではあるが『白鳥の歌』の「3大歌曲集」がよく知られ、演奏・録音頻度も高い。他にも、ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』による竪琴弾きやミニヨンの歌、『ファウスト』に主題を得た一連の歌曲が知られるが、これらは必ずしも一気に書かれたものではない。シューベルトは選んだ詩の全体的な気分を反映して、民謡調で自然や恋を描く曲から近代的な疎外感を描いたものまで多様な音楽を創造し、ドイツ・リートを確立したといってよい。その後フェリックス・メンデルスゾーン|メンデルスゾーンやバラードのジャンルで知られるカール・レーヴェ|レーヴェなどを経て、ロベルト・シューマン|シューマンがクララ・シューマン|クララ・ヴィークとの結婚を控えた1840年(歌の年)に一気に大量の歌曲を創作した。シューマンはその後も歌曲の作曲を続け、シューベルトに続きドイツ・リートの世界を拡大した。シューマンの作品はシューベルトの多くの作品に見られる、詩から触発されて自然に流れ出たような作風と異なり、詩の選択・分析などで緻密な計算のもとで作曲され、より文学的な傾斜を強めている。シューマンはかつてピアニストも志していたこともあり、歌曲のピアノパートが充実していることも特徴の一つである。シューマンに見出されたヨハネス・ブラームス|ブラームスは主に器楽作品で知られるが、生涯を通じて多くの歌曲作品を作曲している。交響曲や協奏曲の重厚な作風とは異なり平明素朴な民謡調も見せるのが興味深い。実際、当時の民謡ブームを反映した『ドイツ民謡集』を作曲・編纂している。著名な『子守唄』『眠りの精』はこの作品集に含まれる。重要な歌曲作品としては連作歌曲集「マゲローネのロマンス|ティークの『美しきマゲローネ』によるロマンス(マゲローネのロマンス)」や、単独の作品として有名なものでは、作品43に含まれる「永遠の愛」Von ewiger Liebeや「五月の夜」Die Mainachtなどがある。ワグネリアンでもあったフーゴー・ヴォルフ|ヴォルフはゲーテ、メーリケ、アイヒェンドルフなど特定の詩人の作品に短期集中的に取り組んで「歌曲集」として作曲を行い、独特の語るような旋律で詩の内容に鋭く迫る作品を残した。一方、イタリアなど南欧への憧れを反映した『イタリア歌曲集』『スペイン歌曲集』では、集中力は維持しながらも陽気で開放的な作品も見られる。さらにドイツ・リートはグスタフ・マーラー|マーラーとリヒャルト・シュトラウスに引き継がれた。マーラーは民謡調の詩に好んで作曲し、しばしば作品を自作の交響曲に転用するとともに歌曲自体もオーケストラ伴奏のものを多く残した。シュトラウスは濃厚な後期ロマン派の作風を反映した作品を残したが、晩年の作品では彼のオペラ同様に枯れた印象を与える。すでに『4つの最後の歌』の第4曲『夕映えに』はそうした諦念を示す、ロマン派の幕引きのような曲となった。他にフランツ・リスト|リスト、リヒャルト・ワーグナー|ワーグナー、ローベルト・フランツ|フランツ、マックス・レーガー|レーガー、ハンス・プフィッツナー|プフィッツナー、アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー|ツェムリンスキー、フランツ・シュレーカー|シュレーカーなども特徴のある作品を残している。アルノルト・シェーンベルク|シェーンベルクをはじめとした新ヴィーン楽派の作曲家達も、初期においては後期ロマン派の作風で、後には無調や十二音技法によって優れた歌曲を残している。また、さらに後の世代の作曲家ではエルンスト・クルシェネク|クレネクやヘルマン・ロイターが優れた歌曲を残しているが、シューベルトに始まったドイツ歌曲の黄金時代は、新ヴィーン楽派によってその幕を閉じると考えてよいのではないだろうか。また、ドイツに限らず、ヨーロッパを中心としたクラシック音楽の先進地域では、歌曲が豊かに発展した時代は20世紀の前半で終わったと言ってよいだろう。

主な歌曲作曲家


  • 古典派以降
  • フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
  • ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
  • ヨハン・ルドルフ・ツムシュテーク
  • ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
  • フランツ・シューベルト
  • ロベルト・シューマン
  • フェリックス・メンデルスゾーン
  • カール・レーヴェ
  • ローベルト・フランツ
  • フランツ・リスト
  • ヨハネス・ブラームス
  • リヒャルト・ワーグナー
  • フーゴー・ヴォルフ
  • グスタフ・マーラー
  • リヒャルト・シュトラウス
  • マックス・レーガー
  • ハンス・プフィッツナー
  • アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー
  • アルノルト・シェーンベルク
  • フランツ・シュレーカー
  • アルバン・ベルク
  • アントン・ヴェーベルン
  • エルンスト・クルシェネク|エルンスト・クレネク
  • ヘルマン・ロイター

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